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Sketch

ーもしも愛がすばらしいなら

何か、赤いもの

小さな物語/創作

 ある日お茶を入れようと立ち上がった時、部屋の中に小さな赤いものがたくさん落ちていることに気がついた。よく見ると、それは液体だった。血の色に似ているような気がした。
 綺麗に拭こうと思い、雑巾を手にようとした時、それは落ちないものだと気がついた。その家は私が1人で住んでいる家だし、今夜は誰も来る予定もないし、昨夜は友人たちと夜遅くまで話しすぎて疲れていたので、その赤い液体を放っておくことにした。
 よく朝、赤い液体は少し黒ずんでいたけど、昨夜見た時より、少しちいさくなっているような気がした。「もしかしたら、放っておくと自然に消えてしまうものなのかもしれない」と私はボーッとした頭で考えて、それを放っておくことにした。夜には気味が悪いような気もしたけど、やっぱり疲れていて、その赤い染みのようなものは、私に放っておかれた。
 よくよく朝、液体はもっと黒ずんで、でもやっぱり昨夜よりも小さくなってきたので、連日の仕事で疲れていた私は、また放っておくことにした。その日の夜にはもう、気味が悪いとも思わなくなっていた。
 そんな日が何日か続いて、私の部屋の、小さな赤いたくさんの染みのような液体だったものは、真っ黒で、もうシャープペンシルの先ほどの、点ほどの小さな大きさになっていた。目を凝らせば、ようやく見えるくらいだった。
 だから、その日の夜、暗くて、液体はほとんど見えないと言ってもいいような夜、私はいつものように放っておくことができた。けれど、その日はその液体を放っておくには、あまりにも疲れていなさすぎる晩だった。だから私は、もうシャープペンシルの先ほどの小さな大きさになったその液体を、ランプが切れて、少し薄暗い部屋の中で、一生懸命に目を凝らして探し当て、適当な大きさの釘で削ってみたり、一生懸命に布巾でゴシゴシと磨いてみたりした。
 けれど、どんなに落とそうとしても、その液体を落とすにはもう遅すぎたようで、びくともしなかった。なので、私はほんの少し、1匹のミツバチが1回で落とすほどの少量の床の板を削ってしまっった。液体は見えなくなり、床はよく慣れている人が、よっぽどよく見ないと見えないほどの薄さだけ、ところどころ、薄くなっていった。
 よく朝目が覚めると、赤い液体は最初の日のように、鮮明に赤くいたるところに散らばっていた。昨日細かい作業をして、疲れ果てて、快感を覚えるほどだったので、今度は私は赤い液体を広げて床いっぱいに広げられるよう、うすーく、薄く、塗っていった。私の部屋は、赤い色の床になって。
 そしてそれは、その後もずっと変わることがなかった。私は、私の部屋の赤い色をすっかり気に入ってしまい、誰にも気付かれない少しの凹みすら、愛おしく思っていた。実は「一時的に」住む予定だったその部屋に、その後何年間も、住み続けることになった。