Sketch

ーもしも愛がすばらしいなら

キスをした

男は言った。「怖くはないよ」と。
私は答えた。「そんなの知っている」と。

 

私たちは、塔のてっぺんにいた。
てっぺんといっても、てっぺんにほんの少しだけ届かない、そんな場所だった。
けれど、風は強くて、街の景色はほとんど全て見えて、ほとんどてっぺんといってもいいくらいだった。

 

私たちはそこでキスをした。濃密なキスだった。けれど、私は怖れた。このキスが止まってしまって、顔を見合わせた時、私たちは何を話すのだろうと。だから、キスをゆっくりと、できるだけ長く、目の前の相手との無言の時を先延ばしにするためだけに、キスをし続けた。

 

男もそうだった。実際には、「私にはそういう風に思えた」、という方が、正しいだろう。男は夢中になってるフリをしているようだったけど、やはり私と同じく、何かに怯えているようだった。でもそれは話さなければいけない怖れよりも、塔の上で、私にこれからの関係を伝えることへの、怯えのように思えた。

 

私たちはキスをし続けた。街の景色がよく見渡せる、よく晴れた日の、夜更けに、たった2人で。キスだから、たった2人なんておかしい、とか、今まで私はどうしてキスを3人、もしくはそれ以上でやらなかったのだろうとおかしく思った。そんなことを考えながらキスをした夜だった。