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Sketch

ーもしも愛がすばらしいなら

【創作】パンケーキの香り

小さな物語/創作

最近、シャワーを浴びると、体から食べものの匂いがした。食べものーそれも、ポークと野菜のなんとか煮とか、少し高級なレストランで出そうなものだ。(私はベジタリアンだから、肉は食べないんだけど)。

 

毎日違う匂いがして、時おり少し洒落たワインの香りやシャンパーニュの香りも体から漂った。その間、私が食べたのは、豆乳をかけたグラノーラ、ただそれだけだったのに。

 

1週間して、体から漂うディナーの香りに慣れた頃、私はある他の香りに気がついた。食べものではなくて、何か生きているものの香り。嗅ぎ慣れないような、何の香りだか検討もつかないような香り。

 

それからまた1週間が経って、その香りがディナーの香りよりもますます強くなった頃、私は散歩に行くようになった。近くの小さな、でも気持ちのいい公園へ。花々は咲き誇っていたし、緑の生い茂る香りも漂っていた。だけど、私の鼻は、あの「香り」にとらわれて十分に、いつもなら肺の底まで思いっきり空気を入れるような、その植物たちの香りを味わうことができなかった。それで、私は、毎日散歩へ出かけた。

 

それから1ヶ月が経った。ディナーの香りは、私の体から消え失せて、あの正体がつかない香りが私の体を覆っていた。ディナーの香りが消えた代わりに、私はようやく、まともなディナー、といっても、こっちはレストランで出るような香りだけで美味しさが分かるような代物ではなくて、食べてみて、やっと食べものだと分かるような、ギリギリのラインの代物だった。

 

1年が経ち、私はほとんど毎日ディナーをつくった。シャワーの時に何の香りも感じなくなり、散歩の時は潤しい華の香り、水々しい草や木の香りを感じた。

 

2年後、私にはデートの相手ができていた。一緒にいると安心する、面白いユーモアの持ち主だった。彼がいつものように顔を近づけて、私の香りを嗅いだある日、数年前に私を不思議に思わせていたその香りが、「私の」香りだと、気がついた。

 

私は、「私の香り」を思いっきり嗅いだ。