Sketch

ーもしも愛がすばらしいなら

利用される、現実的な詩人、山之口貘が大好き

山之口貘は、沖縄の最も有名で、愛されている詩人の一人だと、私は思う。

 

しかし彼の詩は、編集され、切り取られ、しばしば、まるで彼の詩じゃないかのように唄われる。

 

そんな彼の詩を読むと、時々元気が出てくる。時々うなりが出てきて、時々笑顔になれる。

幾つか彼の詩をば。

  

妹へおくる手紙

 

なんという妹なんだろう
兄さんはきっと成功なさると信じています とか
兄さんはいま東京のどこにいるのでしょう とか
ひとづてによこしたその音信(たより)のなかに
妹の眼をかんじながら
僕もまた 六、七年振りに手紙を書こうとはするのです
この兄さんは
成功しようかどうか結婚でもしたいと思うのです
そんなことは書けないのです
東京にいて兄さんは犬のようにものほしげな顔をしています
そんなことも書かないのです
兄さんは 住所不定なのです
とはますます書けないのです
如実的な一切を書けなくなって
といつめられているかのように身動きも出来なくなってしまい
満身の力をこめてやっとのおもいで書いたのです
ミナゲンキカ
と 書いたのです

 

芭蕉布

 

上京してからかれこれ
十年ばかり経っての夏のことだ
とおい母から芭蕉布を送って来た
芭蕉布は母の手織りで
いざりばたの母の姿をおもい出したり
暑いときには芭蕉布に限ると云う
母の言葉をおもい出したりして
沖縄のにおいをなつかしんだものだ
芭蕉布はすぐに仕立てられて
ぼくの着物になったのだが
ただの一度もそれを着ないうちに
二十年も過ぎて今日になったのだ
もちろん失くしたのでもなければ
気惜しみをしているのでもないのだ
出して来たかとおもうと
すぐにまた入れるという風に
質屋さんのおつき合いで
きている暇がないのだ  

 

私は彼の詩が好きなんだ。